業務災害とは
業務災害とは、労働者が使用者の支配下において労働を提供する過程で、業務に起因して発生した災害をいいます。ここで、労働者が使用者の支配下にある状態を「業務遂行性」といい、業務に起因することを「業務起因性」といいます。
業務遂行性
業務遂行性が認められる場合として以下の3つの類型が挙げられます。
事業主の支配・管理下で業務に従事している場合 |
労働者が、予め定められた担当の仕事をしている場合、事業主からの特命業務に従事している場合、担当業務を行う上で必要な行為、作業中の用便、飲水等の生理的行為を行っている場合、その他労働関係の本旨に照らして合理的と認められる行為を行っている場合などです |
事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合 |
休憩時間に事業場構内でキャッチボールをしている場合、社員食堂で食事をしている場合、休憩室で休んでいる場合、事業主が通勤専用に提供した交通機関を利用している場合などです |
事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合 |
出張や社用での外出、運送、配達、営業などのため事業場の外で仕事をする場合、事業場外の就業場所への往復、食事、用便など事業場外での業務に付随する行為を行う場合などです。 |
中国ロケで泥酔し死亡、労災認定 元NHKスタッフ 朝日新聞デジタル 3月20日(木)5時22分配信 NHKの番組ロケで中国に滞在中の2009年4月、飲酒後に死亡した男性スタッフ(当時31)の両親が労災認定を求めた裁判の判決が18日、東京地裁であった。団藤丈士裁判長は「中国人参加者の気分を害さぬため、大量の飲酒を断れなかった」として、労災にあたると判断。遺族補償一時金や葬儀料を支給しないとした渋谷労働基準監督署の処分を取り消した。 判決によると、映像制作会社に所属していた男性は、中国であったNHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル 日本海軍400時間の証言」のロケに照明・音声担当として参加。その際、中国共産党関係者との宴会で、アルコール度数が高い酒をコップで一気に飲み干す中国流の乾杯を繰り返し、泥酔した。翌朝、ホテルの自室で吐いた物をのどに詰まらせて死亡した。 判決は、男性が宴会に出たのは、旧日本軍が建設した飛行場の撮影許可を得ることや、今後のロケを円滑に進めるのが目的と指摘。業務と死亡との間に因果関係があると結論づけた。 朝日新聞社 |
業務起因性が認められるか否か
(1)事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
この場合、災害は、被災労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられますので、他に業務上と認め難い事情がない限り、業務上と認められます。業務上と認め難い特別の事情としては、次のような場合が考えられます。
ア.被災労働者が就業中に私用(私的行為)を行い、又は いたずら(恣意的行為)をしていて、その私的行為又は恣意的行為が原因となって災害が発生した場合 |
イ.被災労働者が故意に災害を発生させた場合 |
ウ.被災労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合 |
エ.地震、台風、火災など天災地変によって被災した場合(この場合、事業場の立地条件などにより、天災地変に際して災害を被り易い業務上の事情があるときは、業務起因性が認められます。) |
(2)事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
この場合は、事業施設内にいる限り事業主の管理下にあり支配下にあるとみられますので業務遂行性があるといえます。
業務起因性については、休憩時間中の場合は、その間の行動は自由行動・私的行為であり原則として業務起因性は認められません。ただし、事業施設又はその管理に起因することが明らかであれば業務起因性が認められます。
事業主が提供した通勤専用交通機関の利用中の場合は業務起因性が認められます。
(3)事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
この場合は、事業主の施設管理下を離れてはいるが、労働契約に基づき、事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから、仕事の場所はどこであっても、途中で労働者が積極的私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的に業務遂行性が認められ、業務起因性についても特にこれを否定すべき事情がない限り認められます。
業務上の事故発生の事実確認ができない場合
労働者が労働災害により負傷した場合等には、労働者等が休業補償給付等の労災保険給付の請求を労働基準監督署長に対して行うことになります(労災指定医療機関等で受診した場合は当該指定医療機関経由で提出します)。
事業主は、労災保険給付等の請求書において、①負傷又は発病の年月日及び時刻、②災害の原因及び発生状況等の証明をしなくてはなりません。しかし、「業務上」の「事故発生」の事実確認ができない場合、に事業主証明をするということは、事業主が労災であることを認めたことになる」として事業主証明を拒否する場合は少なくありません。もちろん、労災であるか否かはあくまでも労働基準監督署が判断することですが、業務上の事故発生の事実確認ができない以上、事業主としてはこのような証明を出すことは困難でしょう。
そこで、こういった場合、事業主から「証明拒否理由書」を提出することになります(定型の書式はありません)。もっとも、単に証明拒否理由書を出せばよいというものではなく、請求を行う労働者やその遺族に対して事業主証明拒否の理由を丁寧に説明し、労基署の事情聴取等には真摯に応じる姿勢を見せることも重要です。
一般に、フランチャイジーが経営する店舗に関する直接の安全配慮義務についてはフランチャイザーが負担するものではないとされておりますが、個別具体的な事情如何で、フランチャイザーの責任が問われる場合もあるようです。ポイントは、フランチャイジーに対する経営指導において、過重労働を認識し、それを改善指導することができたかどうかというところでしょう。
事 案 |
大手コンビニエンスストア「F」のフランチャイズ(FC)加盟店で2013年、勤務中に事故死した男性従業員(当時62歳)の遺族が、長時間労働による過労が原因として、同社とFC店経営者に約5800万円の損害賠償を求めた訴訟。訴状によると、男性は11年から大阪府大東市内の店舗で勤務。12年からは同じ経営者が経営する同府門真市の店舗でも働き、掛け持ち勤務を続けていた。同年12月、大東市内の店舗で作業中、脚立から転落し頭を打ち、13年1月に死亡した。 男性は労災認定を受けたが、遺族側は過労が事故の原因だとして昨年4月に提訴した。同僚らからの聞き取りなどから、事故直前の半年間の時間外労働が「過労死ライン」とされる月80時間を大きく上回る月218~254時間だったと主張。「経営指導のため定期的に訪れていたFの担当者も、男性らの過重労働を認識できた」とし、Fにも賠償を求めていた。 |
結 果 |
同社と経営者が連帯して解決金4300万円を支払う。和解条項には男性が著しい長時間労働だったことを被告側が認めたうえで〈1〉加盟店経営者は男性に著しい長時間労働をさせたことを深く謝罪する〈2〉Fは著しい長時間労働の中で事故を起こし死亡したことに遺憾の意を表明する〈3〉Fは加盟店やその従業員と適切な関係を築き、信頼される企業となるよう不断の努力を行う――ことが盛り込まれた。 |
読売新聞2016年12月30日 06時04分より一部抜粋